「電話番@note」共同企画
この記事は、「電話番@note」の「時代が『追い付いて』なかったBRTと、時代を『上手く』利用したSL列車」の中にて紹介した「臨時快速SLばんえつ物語」の乗車記を、転載の上で、再編集したものです。
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会津若松 → 新津
会津若松から
快速|SLばんえつ物語号
オハ12-314
次は、今回の旅のメインディッシュともいえる「SLばんえつ物語号」だ。
普通列車で会津若松に着いて構内を一瞥すると、離れたところにこの列車が止められていたが、その時から仕切りにカメラでその様子を取る人が多く、
出発間際の列車入換作業の時も、カメラを持った客が追いかけ回していた。
令和になってなお、SLは人気者だ。
ゆっくりと入線し、予約された3号車の窓際進行方向に座る。
この客車は国鉄中期に作られた12系客車というものだが、この「ばんえつ物語」用に改造されボックスシートも何となくレトロチックな雰囲気になっていた。
まだ客がうごめいている中、15時30分、発車。
3分遅れ…大きく長い汽笛と「ガツーン!」という、客車列車特有の「しゃくれ」と共に…
さきほど乗った普通列車が走っていた郡山からの線路と離れたあたりで、ハイケンスのセレナーデ(電子音)のチャイムの音とともに車内案内が始まった。
「皆様。こんにちは!」
こういう出だしで始まる車内放送は初めて聞いた。
向かいに座っていた客が席を立ったので、それを機に窓を開けてみる。生ぬるい風かと思いきや、一定の涼しさを感じる風だった。
考えてみれば、今どきこういう感じで窓の開く列車などほとんど無く、周りでも僕のように窓を開けてはしゃいでる客を見てこういう体験すら貴重なものになっているんだな・・・と、自分がかつての鉄道旅で当たり前のように「やってきた」事が、本当に貴重になってきている事に驚く。
列車はそんなに飛ばす風でも無く、あくまで流すように走っている。時折心臓の脈動のように小刻みにしゃくれる感覚というのも、今の鉄道旅ではまず味わえない。
54分、喜多方着。
ドアが開くと同時に、鉄道ファンが風景の写真を忙しなく撮る…僕も昔はああだったのかな。彼らの趣味への「熱量」に懐かしさすら感じる。
トンネルやや山麓をすり抜けて、16時10分、山都着。
ここいらで、先程ビュフェで買ってきた新潟の地酒「越後鶴亀」と「鮭の焼き漬け」で猪苗代以来の「二杯目」を頂く。SLに乗りながら日本酒を頂く…これ以上ない贅沢だ。
トンネルに入る。俄に車内が暗くなる、いやムーディーな感じになる。交通機関が鉄道しかなかった頃は、そんなことも言ってられないだろうが、「SLばんえつ物語号」のような「クルーズトレイン」となった今では、このムーディーな雰囲気も充分「売り」になりそうだ。
車窓には阿賀川が流れている。これが新潟県に入ると阿賀野川になる。
尾登あたりからラウンジカーにいるのだが、何となく煤の臭いがする。そういえば車掌も、窓を閉めていても煙が入る事があるって言っていたな…
30分、野沢着。
ここで機関車の点検を兼ねて10分停まるとの事。会津若松では撮れなかった機関車を撮ろうかな…と思ったら、
ご覧の人だかり。みんな考える事は同じなんだな(笑)
野沢を出ると、じゃんけん大会があるとのこと。僕はこっぱずかしさもあったので遠慮したが、こういう光景もイベント性の強い列車ならではか。それにしてもJRも色々考えるものだなぁ。
篠つく雨に煙る川面が幻想的だった。
グーグルマップで確認するといつしか新潟県に入っており、17時10分、日出谷着。
かつては「朝陽館のとりめし」という駅弁が売られていた駅なのだが、そんな気配がウソのように静まり返っていた。
24分、津川着。
ここでも「機関車点検」の名目で15分間停車。
や、実際に「点検」はしていた。SLにとって石炭と水は「必要不可欠」な存在だから、その補給は立派な「点検」だろう。
それにしても令和の世に、石炭をくべたり給水する風景が見れるとは思わなかった。37分、発車。
僕も童心に帰り、SLらしい写真に挑戦してみる。ほどなく短めの汽笛が続いたので急いで窓を閉める。程なくしてトンネルへ入った。
そのうち、というかトンネルに入る予兆みたいなものが、機関車の汽笛と周りの風景でわかるようになってきた。
それまでパッとしない天気だったが、東下条を過ぎた辺りで夕陽が差し込み始めた。
18時9分、咲花。
駅近くに合宿に来ていた小学生なのか、SLの見物がてら「出迎えて」くれた。彼らの中にはSLを見るのは初めてなのか、目を見開いて唸っている子もいた。
鉄道を好きになってくれるかどうかは判らないが、彼らの心の中にこのSLの姿が焼き付いてくれればいいのだが・・・
馬下を過ぎると険しい地形は通り過ぎたようで、気づいたら越後平野の中に降りていた。
25分、最後の停車駅・五泉着。
馬下行きの新型ディーゼルカー(GV‐E400系)とすれ違う。
思えば沿道に出てきて写真を撮る人、そしてそういう事関係なしに見送ってくれる人、共通して言えるのはみんな「手を振って」くれている事。
これだけ殺伐した社会の中で、強制をされずとも自発的に手を振ってくれる人がいるということに、感動を越えて何か「絆」みたいなものを感じる。
別れを惜しむかのようにゆっくりと歩みを進めつつ44分、終点の新津着。
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イベントには縁の無い人間を自負すらしている感のある僕だが、久しぶりに客車列車に乗れたことや鉄道が「本来持っていた」であろう「時代」という光景を、JRという一企業が余すところなく再現している事に、素直に感動した。
確かに「また乗りたい」と思わせる列車で、そういう意味ではSLという「時代」を上手く観光資源に活用した一例だと思う。
【令和6年7月27日乗車】