■プロローグ
高速バスに乗れば、県境を越えるという意識を乗客はあまりしない。昼行高速バスはもとより、夜行高速バスともなると複数の県を一晩で跨いでしまうのでそういった意識をすることはまずない。
しかしこれを一般の路線バスで越えるとなると、途端に「今から違う県に入るんだなぁ」という具合に何か感慨深いものを感じる傾向にあるようだ。これから紹介する路線は福岡から大分へ入る路線バスであるが、県境を越えるのがこんなに大変なものかと思い知らされる、まさに「旅」を意識させる路線である。
■杷木~柚木
早朝に福岡を出て、日田行き高速バスに乗車。三郡山地と耳納山地に囲まれたあたりにある杷木という町で降りた。このバスでも大分県へは行けるのだが、今回は見送る。
バスの時間までしばしバス停を観察。
以前はターミナル然とした待合室の建屋があったそうだが、いかにも「新築しました」な風情の小さな建屋になっており、こざっぱりとした待合室は快適ではあるが、建て直す前の古い頃に行っておけばよかったかなぁとちょっと後悔。
9時前に駐車場から1台のマイクロバスが建屋に横付けされた。
浮羽経由のコミュニティセンター行きである。西鉄バスにマイクロバスの路線があるというのは聞いていたが、こうして実物を見るとやはり「小さい」。
僕の他に1人が乗ってきて発車。ガラガラガラーッと運転席後ろあたりからのエンジン音がガランとした車内に響く。外が雨という事もあって、雨粒に包まれるバスにちょっと不安を感じつつもワクワクしてくる。
杷木から一本道を快調に飛ばし国道210号に出て浮羽発着場へ。ここでも1人が乗ってきて元来た道を引き返す。すぐに山の方へ入り道も細くなってきた。いよいよである。
運賃箱というのはこれまで乗務員さんよりも低いところにあるのが普通だと思っていた。けどこのバスでは見ての通り、乗務員さんの衝立の如くそびえ立っている。これが珍しくてしげしげ眺めていたら乗務員さんと色々話がはずみ
「昔はもっと大きな車がこの路線を担当していた」
・・・え?マイクロでも辛そうな道の細さなのに?
「まあそれだけ昔はお客さんもいたからねぇ」
ちょっと寂しい感じに。
乗っていたお客さんは途中で皆降りていき、金井原を過ぎたら乗務員さんと僕だけになった。ガタピシ揺れるし道は極端に細くなったり、ヘアピンまがいのコーナーも出てきてまさに狭隘路線の要素が詰まっていた。
「この路線はたまに東京とかからもバスマニアさんが乗りに来られますね」
はい、僕もそのクチです。
「狭隘路線に乗るってのが僕らの間で流行ってるんですよ」
と話を振ってみると
「久留米管内も昔は結構離合のキツい路線が多かったんですけどね、改良されたり路線の廃止で軒並み減りました」
との事。そんな感じで色々と話しこんでいたら。
「どこか停めてほしいところあります?」
へっ?いや、そんないいですよと断ったが、
「時間はあるからどこでも停めますよ」
と・・・そのご厚意に甘えそれではと、県境付近でお願いした。
まさに県境である。ちょうどバスの停まっているあたりが県境で手前が福岡県朝倉市、これから先が大分県日田市(旧前津江町)だ。
雨もパツパツ当たって寒かったけど、せっかくのチャンスなのでこういう感じの絵も・・・乗務員さんに感謝!
「もういいのですか」
ええ、停めて頂いただけでもありがたいのに、僕の趣味活動でダイヤを乱してしまっては申し訳ない・・・と思ったら
「ほとんどお客さんがいなかったから早めに来てますからね・・・」
との事。なるほど。
終点のコミュニティセンターではバスを転回させるスペースがあるのだが、生憎センターで集会があるようで車が止められていた。
「あら、んじゃ仕方ないね」
乗務員さんはさっさと見切りをつけて山の中へ。どこまでいくんだろ・・・と訝しんでたら、
「ここでバックして待機しますよ」
で、着いたのが
まさに「どんづまり」という言葉に相応しいところでバスは停まった。地図をみればそう遠くないところで道も「どんづまり」を迎える。
森閑とした空間に人間が放り出されると、案外とどうしていいのかわからなくなるものですね・・・
■柚木~浮羽
色んな角度でバスを撮ったり、乗務員さんと話しこんでたら出発時間がきた。
「じゃ行きますね」
乗用車でも動かすような気軽さで浮羽行き発車。
起点のコミュニティセンターは乗車ゼロ。時折軽トラと離合するもマイクロの身軽さで難なくこなす。中型だとこうはいかないだろうなぁ・・・
数軒ある集落を縫うように走るものの、乗車はなく行程の真ん中あたりでおばあさんが乗車。
「おばあさん、今日はどこ行くの」
「病院行くんだわ」
「ああ、それはいいわ」
乗務員さんとの掛け合いも自然なもので、「ヨソ者」の僕には入り込めない間がそこにはあった。
雨はやや弱くなり幾分か走りやすそうになったが客はおらず、結局僕とおばあさんだけがマイクロバスの中で揺られていた。
「病院は昼までなんじゃ」
「娘は用事があるといって迎えにこれん」
おばあさんの一人ごちてるのを乗務員さんが聞きつけ、
「おばあさん、今日は日曜だから昼の便はないよ。帰りはタクシーかね」
「そうか。そうするわ」
おばあさん、病院に行ったはいいが危うく帰れなくなるところだった。乗務員さんのフォローが本務以外にも行き届いていて感心する。
原まで戻ってきてようやく人里に戻ってきた感がしてきた。雨もようやく上がった10時過ぎに浮羽発着場に到着。
えっちらほ、と降りるおばあさんに続いて降りると乗務員さんに一礼し最後のカットをカメラに収めた。
バスは杷木へ戻っていった・・・
■エピローグ
極端な狭隘区間は少なかったものの、急こう配と自然のシケインがやたら多くマイクロバスと言えど、なかなか辛そうな路線に見えた。
趣味的には「一般路線で県境を越えれる」という要素があるので面白いのだが、さて経営的にはどうなのだろうか。平日5本、日祝3本という運行本数が物語るように、いつ無くなってもおかしくない路線であるのには違いない。乗る機会があれば万難を排して乗車されることをオススメする。
(平成29年1月8日乗車)