九州産交バス トワイライト神戸号

【路線データ】

  • 事業者:九州産交バス
  • 路線名:トワイライト神戸号
  • 車両型:日野セレガ
  • 路線型:高速路線バス(都市間連絡型)
  • 乗車日:平成22年10月17日
  • 乗車区間:阪神尼崎~鹿児島中央駅前

【乗車記】


梅田から阪神電車で15分ほどで尼崎に到着。近鉄との乗り入れでホームは賑やかになりましたが改札を抜けて南側のバスターミナルに行くと、どこかうらぶれた雰囲気で静かというよりは寂しさを感じました。

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このような張り紙を見れば尚更なのかもしれませんが、この「阪神尼崎」というバス停は一時期はそこそこ賑わっていました。川崎行き「アンカー号」、福山行き臨時便、そして八代行き「トワイライト神戸号」と鹿児島行き「トロピカルライナー号」と東西へ向かう高速バスのターミナルとして毎晩夜行高速バスが発着していました。
それが櫛の歯が抜け落ちるように川崎行きが廃止、福山行きもいつしか自然消滅、そして熊本行きと鹿児島行きが一緒になって1本化され、15年ほどが経ったこの10月に廃止の告知がアナウンスされました。
「トワイライト神戸号」の客らしき姿はパラパラと見受けられました。どの客も傍らに大きな旅行鞄を抱えているので一見してそれとわかります。

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まもなく20時にならんとする頃、1台のハイデッカータイプのバスがやってきました。今夜の宿となる「トワイライト神戸号」熊本・鹿児島行きで、「サンライズカラー」と呼ばれ親しまれている九州産交の高速バスです。
「お待たせしました。熊本、鹿児島行きです」

乗務員さんの声に誘われるようにバスの入口に並びます。といっても、客は僕を含めて5人だけ。もっと居たように思われましたが、実際は見送りの人が大半でした。トランクに荷物を預けタグ代わりの半券を受け取って車内へ。

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整然と並んだ独立3列シートは夜行バスの標準スタイル。最後部は4列になりがちだがこのバスは最後部まで独立したシートが並んでいます。アサインされた席は「4B」。なんとなく窮屈さを感じたので改札に立っている乗務員さんに「どこか空いている席は無いか」と尋ねたら「後ろの方ならどこでもいいですよ」との事。そこでダイナミックに移動した先は・・・10列目の窓側。座ってみるとエンジン音がやや耳障りかなと思ったがさほど騒がしくも感じませんでした
前に数人。8列目あたりに1人座って発車。やや混雑気味の国道43号を西へ向かいます。10分ほどで最初の停車地・阪神甲子園に到着。帰宅客を乗せた市内向けバスがターミナルを埋めており、そこへ割り込むように入っていった「トワイライト神戸号」はなんとなく「余所者」的な存在に見えます。1人が乗車。

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このまま国道43号をひたすら走るのか、と思ったら阪神高速の西宮ランプを駆け上がりハイウェイクルージングを開始。僅か20分ほどだったが山手の街灯かりというのも星屑のようで悪くないものだと再認識。生田川ランプで降りて徳島あたりからの高速バスと併走しつつ2箇所目の停留所・神戸三宮に滑り込みました。

7人ほどが乗り込んできましたが、そのうちの1人が予約ナシのいわゆる「飛び込み客」。乗務員さんがカバンを開けて色々と書類を書き込んで忙しそうです。荷物のハンドリングにも結構手間取っているようでしたが、ドアが閉まって動き出したのは定刻の20時55分。案外時刻表通りに出発できるものですね・・・
京橋ランプから再び阪神高速へ。交替の乗務員さんがマイクで車内案内をしていますが、最後部にいるとなかなか聞こえ辛いですね。車内中間部右側に設置されたビデオであらましは理解出来ましたが、あまり後ろの席に陣取るもんじゃないと反省。
案内が終わるとDVDの映画放映に切り替わりました。洋画が流れていましたが何となく観る気はおこらず、夜景をずっと眺めていました。

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月見山で阪神高速から第二神明へ。明石西からは加古川バイパスへ。さらに高砂からは姫路バイパスへ。結局播但道から山陽道へ入るルートまで全部見ていた勘定に。夜行バスに乗ると何となく寝るのが惜しい、というのはヘンなのだが「せっかく高い運賃を払ったんだから全部見たい」というマニア心が目をパッチリ開かせていたように思います。学生の頃はその精神で神戸~福岡間を徹夜してみたり、最近でも休憩地ごとに全部降りてみたりと・・・傍から見れば奇態な行動をとっているように思われますが、本人はいたって真面目なのだから始末に負えません(笑)
赤穂を過ぎたあたりから眠くなり、ふとエンジンの回転数の落ちる音で気がついたらどこかのパーキングエリアに入っているくところでした。やっぱりトシをとっているんだなと実感・・・

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停車したのは岡山県の瀬戸パーキングエリア。以前鹿児島方面の夜行バスに乗った時は三木SA(阪急バス)や福石PA(近鉄バス)で休憩していたので、今回も福石くらいかな・・・と思っていましたが大方の予想を外した格好になりました。時刻は22時42分。ほとんどの客が降りてトイレに行ったりコンビニに駆け込んだりと思い思いに過ごしていました。
車内に戻りドアが閉まると「明朝の植木インターまで消灯します」と簡単な案内の後にスッと車内灯が消え予備灯だけになりました。その予備灯も動き出して5分ほどしたら消灯。時折携帯(Xperia)を出してGPSで位置確認。倉敷付近を走っている事を確認して目を閉じました。
コトンと小さな音があってふと目覚めると、どこかのPAに停まっているようでした。GPSを見ると「宮島SA」・・・時刻は1時過ぎ。まだまだだなと思って再び寝込みました。次に停まった気配でまた目が覚め、時計は午前3時半で見ると「吉志PA」・・・もう九州に入ったのですが、まだ真っ暗でイマイチ実感が湧きません。
「おはようございます。まもなく植木インターです・・・」
なんとなく遠慮気味の声で車内放送が流れました。時刻は5時過ぎでまだまだ真っ暗。これから延々鹿児島までこまめに停車していく訳です。高速バスというと都市間輸送の代名詞のような存在ですが、「トワイライト神戸号」はそれまでの八代行きと鹿児島行きを合併した路線なので、2つの路線の停留所を1つの路線にすべて盛り込んだ格好になってしまい「都市間輸送」とは程遠い停留所の多さになっています。

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その植木インターでは2人下車。5時過ぎという時間にもかかわらず、客待ちのタクシーがいることに驚きました。次の武蔵ヶ丘は降車無しのため通過し、そのまま熊本インターで高速を降りました。松の本も降車がなく次に停まったのが県庁前。インターから市街地へ向かうこの道も、昼間は混雑のためスムーズに走るのが至難の業だが6時前とあっては閑散としたもので、あっという間に通町筋までやってきました。ここにも高速バスの停留所はありますが夜行便では客使いはしないはずだ。が、「トワイライト神戸号」は停車。床下の仮眠室から交替の乗務員さんが出てきて運転室に合流しました。

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5時49分、熊本交通センター着。6人ほどが降り車内は一気に寂しくなりました。尼崎からの乗務員さんはここでバスを離れ、新たなペアの乗務員さんが乗り込んできました。例によってそのうちの1人が仮眠室に潜り込んでいきました。バスの横には1台のライトバンが横付けされており、これで営業所まで帰るのだろうと推測。お疲れ様でした。
南環状線という道路を走っていると、シラジラと夜が明けてきました。まだまだ交通量は少なく、快調に走り御船インターから再び九州道に乗りました。福岡発の昼行路線の休憩地―宮原SAをすっとばし八代インターへ。

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ここでも1人が下車。ここまでがかつての「トワイライト神戸号」で、ここから先は「トロピカルライナー号」だった頃のルートを辿ります。もっとも開設当初は熊本~八代間は下道経由だったり、鹿児島線も単独時代はこの先の人吉インターには立ち寄らなかったので純粋な合併路線という訳ではないのですが。
ここからは球磨川沿いに進むため、雄大な川の流れを見れるなど景色は中々良いですが、急峻な山間を抜けるため23のトンネルの「洗礼」を受けました。鹿児島交通と共同運行していた頃の休憩地「山江PA」をあっさり通過。休憩は無いのだろうかと少し不安になります。

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それまで快晴だった空が人吉付近になると一面の霧に覆われて・・・川霧が出ると天気が良いとは言われているけどこの霧の濃さはハンパではありません。そんな霧の中を進み人吉インターに停車。ここで1人が降り車内は僕とあと1人だけと、ローカル線顔負けの閑散ぶりに。もはや夜行高速バスに乗っている雰囲気ではなく、南九州のいちローカルバスにでも乗り合わせたかのような錯覚に陥りました。
霧のためかそれほど速度を上げず、じりじりと登り加久藤トンネルへ。抜けるとそこは宮崎県でうっとおしい霧の風景が一変し、南国らしい茫洋とした平野が眼下に広がった。

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ほどなくえびのPAに滑り込み、

「こちらで最後の休憩をとります。15分ほど停車します」
との事。えびのPAで休憩なんて学生時代に乗った「きりしま号」の南九州高速バス便以来だなぁ・・・。色々とカットを撮っていると交替乗務員さんも仮眠室から出てこられました。ふと上を見上げると、有名な「えびのループ橋」がこちらを睥睨するかの如く鎮座していました。そういや路線合併が94年、人吉~えびの開通は翌年だからこのループを1年間だけだけど「トワイライト神戸号」も走っていた事になりますね・・・
ドアが閉まると、乗務員さんから

「鹿児島市内まで直行します。空港では降りられませんね?」

と確認する旨の案内があった。宮崎道が分かれてしばらくすると、鹿児島県に入りました。時刻は7時50分頃。大阪からの「さつま号」や「トロピカル号」はすでに鹿児島市内の終点に到着している頃ですね・・・軽いアップダウンを越え予告通り鹿児島空港南のバス停は通過。

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頻繁に鹿児島市内と空港を結ぶリムジンバスとすれ違います。

加治木を過ぎ左手に桜島を望むポジションに・・・煙は噴いていませんが、なだらかな裾野は「小富士」の貫禄すら感じさせます。

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姶良台地に入ると交通量は目に見えて増加し、昨晩以来のスムーズさは無くなりました。薩摩吉田インターで九州道を出て今度は県道を吉野台地へ。ここは南国交通のエリアで、頻繁に路線バスとすれ違います。

国道10号と合流する清水町でやや渋滞にハマりましたが、遅れというほどのものは感じず市街地へ。旧カラーの市電が「トワイライト神戸号」を出迎えてくれました。鹿児島でも随一の繁華街・天文館の停留所も通過・・・

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鹿児島中央駅が前方に見えてきたと思ったら、その駅前通りを左折し停車。ここが「鹿児島中央駅前」停留所でした。終点の高速船ターミナルまで乗りたかったのですが、仕事のスケジュール上ここで下車。あと1人の客もここで降りたので多分このまま車庫へ回送なのでしょう。


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そもそも路線合併した時点で「どっちつかず」な路線になってしまった感は否めなかったです。下りの場合、熊本で降りるにも朝が早すぎるし、鹿児島まで乗ると生活のリズムからすればちょっと遅い感がします。上りの場合は両都市ともにベストな時間帯に発車するだけに惜しい気がします。
路線の運行を中間事業者である九州産交のみで運行していたというのも考えてみれば不思議なもので、両端の都市の事業者である阪神電鉄(現・阪神バス)と鹿児島交通(現・いわさきバスネットワーク)がそもそもこの神戸~鹿児島間の路線を開設したはずです。それを結果的に後から路線合併で加わった九州産交に「丸投げ」したカタチになってしまい、それが路線の破綻の遠因になっているように感じました。
熊本単独路線時代からすれば20年の運行は、改廃の激しい鹿児島関連の路線にあっては「長命」な部類だった方かもしれません。今後は熊本側は現行の「サンライズ号」と「トロピカル号」が代替という事になりますが、神戸停車は今のところ計画されていません。神戸~九州間の需要はまったく無いわけではないのですから、何とか実現されることを切に願います(12月以降は神戸からの九州行きは神姫関連の長崎行きのみ)

(令和元年5月23日記事構成変更)

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